Share

第百二話 後半戦

last update publish date: 2026-06-28 05:00:24

第 百二話    後半戦

 玉菊灯籠が終わり、夏の暑さも落ち着いた頃

 「一花、お婆の様子はどう?」 「はい。ゆっくりですが、歩いています」

 采の足の怪我も落ち着いてきて、昼見世の時間には遣り手の席に座れるまで回復していた。

 「なんだい? そんな大騒ぎすることじゃないって、言っただろ」 采の言葉も荒く、以前のような元気が戻ってきた。

 「はい、お婆……」 梅乃が肩を貸し、遣り手の席まで誘導すると

 「すまないね」 梅乃には優しい言葉を掛ける。

 「少し丸くなったのかしら……」 小夜は隠れながら様子を見ている。

 「で でも、優しい時の後って……」 古峰も同じように隠れ

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百三十二話 廓

    第百三十二話    廓《くるわ》 “カンカンッ カンカンッ ” 長屋に金づちの音が響く。 「いよいよ完成だな…… 頼んだぞ」 岡田が梅乃の頭を撫でる。 「先生、ありがとうございます…… この恩をどう返していけば良いか悩み中です」 梅乃が照れたように話すと 「もう十分に返してもらっているよ。 お前が医者になってくれた事だけで、俺は満足だよ」 岡田はニコニコしている。 師弟関係を持てたということだけで嬉しかったのだ。 「それに、赤岩先生に報告できた事が大きい。 二人で報告できて良かったよ」 「はい…… 私は二人の師に育てられましたから……」 「どうだ? これでいいか?」 大工が梅乃を呼ぶと 「はい、嬉しいです。 ありがとうございます。 あの…… 三原屋でお茶でも飲んでいってくださいね」 梅乃が頭を下げる。 この日、ついに梅乃の診療所が完成した。 『吉原診療所』である。 三原屋に住み着き、医者として活躍した赤岩や岡田。 その三代目となる梅乃が初めて個人で診療所を作ったのだ。 とは言っても、三原屋の倉庫を借りての開業となる。 この完成の瞬間、多くの人が診療所に駆けつけていた。 「おめでとう!」 拍手と歓声の中、梅乃は何度も頭を下げている。 「最初の患者はお婆から……」 梅乃は采の手を引き

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百三十一話 西天楼

    第百三十一話 西天楼 明治十一年 二月。 世界では画期的な出来事があった。 エジソンが発明した蓄音機がニューヨークで世界最初の特許権を獲得し、 文明が一段と進歩したのである。 「よろしくお願いいたします……」 東郷が頭を下げると 「じゃ、頼んだよ。 先生……」 キセルを吹かせ、微笑んでいる女性がいる。 その女性は西天楼の遣り手の勢津だ。 西天楼は深川の大見世で、三原屋と同じく大見世の筆頭であった。 「これで吉原の客も深川に向くだろうね。 はっは…… 楽しみだね~」 勢津はキセルを吹かせながら笑っている。 「お婆…… どうして吉原が嫌いなの? わざわざ吉原で妓楼まで買収するなんて」 「おだまり…… これは深川の西天楼が日本一になる為にやっているんだ。 お前は看板娘としていればいいんだよ……」 勢津はニヤッと笑う。 話していたのは勢津の娘であり、看板娘として側近をしている古都である。 大部屋に行くと 「古都ちゃん…… 吉原に行っても警戒されているよ。 花菱楼だって摘発されたしさ……」 妓女たち数人が古都を囲む。 「すみません姐さん…… お婆が言うものですから……」 「そうだけんどさ…… 周りの見世も吉原にちょっかい掛けて花魁に叩かれたじゃないか…… それに、あの看板……」 妓女が説明すると、古都がキョトンとして 「あの看板……?」 「そうだよ……『無風流者は馬の糞である』とか書かれているんだよ。 もし、馬のふんでも投げられたら たまったものじゃないよ……」 吉原では梅乃の立てた看板を見て笑う者が出てきている。 吉原の秩序を乱す者には馬の糞でも投げてやろうと息を巻いている客や妓女が増えていっていた。 「そうですか…… どんな者が立てたか見てみたいですね……」 古都がニヤリと笑う。 その頃、吉原では梅乃が長屋の倉庫を改修していた。 「姐さん…… 下で騒がしなりますが気にしないでくださいね。 それと、窓を開けて換気しますから」 梅乃は病気で臥せっている妓女たちの診察をして窓を開ける。 「梅乃、すまないね……」 妓女が弱気になっていると 「何を言っているんですか。 また元気になって働きましょうね」 梅乃が微笑む。 (本当に、小さなお天道様だよ……) 倉庫から荷物を出して、埃だらけ

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百三十話 ふりむいて 吉原

    第 百三十話    ふりむいて 吉原 朝の六時、まだ空は暗かった。 「ま まだ二月ですもんね…… よく眠れましたか?」 東郷は三原屋に泊まっていた。 横でお世話をするのが古峰である。 古峰は指名も少なく、布団を別にして東郷と同じ部屋で眠っていた。 「わっ―っっ」 東郷が大声を上げると古峰が肩をすくめる。 「ど どうされました?」  「なんで俺は…… 酔って眠ってしまったのか……」 東郷が身体を起こすと 「お お手伝いします」 古峰は背中を押して、ゆっくり起こしていく。 「すまない……」 「い いえ…… これくらい」 古峰は恥ずかしそうにしている。 「それで、梅乃ちゃんは……?」 東郷がキョロキョロと部屋を見渡す。 「お お姉ちゃんは往診でございます。 ま まだ病人が心配なんでしょう……」 古峰が茶を淹れ、東郷に渡すと 「梅乃ちゃんこそ、大丈夫なのか? コロリが完全に治った訳じゃないだろうに……」 東郷は心配になり、着替えを探すと 「あ あの…… 洗濯をしていまして、外に干していますが……」 古峰が外を指さす。 「すまない…… それで乾いているかい? 梅乃ちゃんが心配なんだが……」  古峰は片山

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百二十九話 ラムネ

    第 百二十九話    ラムネ小松屋で感染した妓女たちが徐々に回復していく。 十二名が感染し、二名が亡くなるという結果にはなってしまったが「よかった……」 梅乃が安心していると「うげーっ―」 梅乃の嘔吐がはじまった。「梅乃ちゃん!」 小松崎の大声が響く。 (まさか?) 二階で声を聞いた葉蝉が階段から降りてくると、便所の前でグッタリしている梅乃がいた。「梅乃ちゃん――」 葉蝉が駆け寄ると 「ダメです!」 梅乃は朦朧とした状態で手を広げる。「梅乃ちゃん……」「感染《うつ》りますから……」 梅乃は手を前に出して葉蝉が来ないようにする。小松崎が三原屋に駆け込み「すみません…… 小松屋ですが――」 ドンドンと戸を叩く。「どうされました?」 対応するのは片山である。小松崎が梅乃が感染したことを話すと「なんてこと……」 部屋にいた采にまで話が聞こえてしまった。 小松崎が采の部屋に行き、頭を下げる。 「采さん、すまない…… 梅乃ちゃんが……」 「仕方ないよ。 これも梅乃が自ら医者になった結果だ。 ただ、親としては死なせたくないのが本音だ…… 感染したら外に出ていく訳にもいかないだろうから、少しの間は面倒見てくれないかい?」

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百二十八話 意地という炎

    第 百二十八話    意地という炎 小夜は翌日の昼近くに三原屋に戻ってきた。 「すみません……私、吉原から出たことがなくて、深川と言われても怖いというか……」 「そんなことないよ…… 大丈夫だから」 「でも、すみません……」 小夜はしきりに謝って花菱楼を出て来たという。 三原屋でも噂になり、表向きは小夜が潜入捜査をしたことになっている。 「小夜、よく花菱楼の悪事を暴いたね。 よくやったよ~」 妓女が小夜の頭を撫でると「へっ?」 小夜の目は点になってしまった。「小夜…… ちょっとおいで」 采が呼ぶと、肩を落として部屋に入っていく。「お婆、すみませんでした……」 「……」 采は黙って小夜を見つめる。「失礼しんす……」 梅乃と勝来が采の部屋に入ってくると「……」 小夜は、より一層、緊張感が高まっていのを感じる。「小夜、私から話していいかな……?」 梅乃が小夜を見ると「うん…… 話して」「前にも言ったけど、私が邪魔なら言ってね」「それで、どうするのよ?」 小夜が顔をあげると

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百二十七話 暗闇の暗号

    第 百二十七話    暗闇の暗号「わかりました。 では、引手茶屋にご案内しましょう……」 梅乃が手を叩くと小夜が近づいてくる。「はい……」 小夜が頭を下げる。 この世界は遣り手の席の者が高い立場にあって、呼ばれた者は頭を下げて指示を待つことになっている。「……」 梅乃は黙って小夜を見る。 数秒が経った後「一花いるー?」 梅乃が声を上げると、一花が走ってくる。「……梅乃?」 小夜は、またもや呆然としてしまう。千に突き飛ばされ、古峰にも突き飛ばされる。 最後には梅乃にまでスルーされてしまったのだ。何も知らない小夜の目に涙が滲む。(何よ…… 私は加わってはいけないの? もしかして私が犯人扱いされているの?)小夜が悔しそうな顔をして外に飛び出していく。 客は小夜を気にしてか、何度も外を見ていた。「一花、お客様を千堂屋まで案内してくれる?」「わかりました」 客は八千代と一花を連れて引手茶屋に向かった。客が戻ってくると 「お二階へどうぞ。 酒宴で宜しいでしょうか?」 梅乃が訊くと 「そうね…… そんなに高い物じゃなくていいわ」 これに八千代が答えていく。(馴染みか…… 私が遣り手の席に多く座っていた頃は来ていない…… 最近の客か……) 梅乃は静かに帳簿を開いていく。

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第四十六話 袖を隠す者

    第四十六話    袖を隠す者 昼見世の時間、禿たちは采に指示を受けていた。 「いいかい、妓女として芸のひとつは身につけておかないとダメだ! 舞踏、三味線、琴でもいい…… わかったね!」「はいっ!」 三人は元気に返事する。 この冬を越えれば梅乃と小夜は十三歳となる。 菖蒲や勝来は十四歳の終わりに水揚げをし、十五歳になったら客を取

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第二十二話 昼行燈

    第二十二話    昼《ひる》行燈《あんどん》「潤さん、おはようございます」 梅乃は早起きをして、見世の前をホウキで掃いていた。「おはよう、梅乃~」 片山も朝早くから掃除をしていた。初夏になると朝陽が昇るのが早い。早い時刻に外が明るくなる為、自然と『後朝の別れ』も早くなっていく。“ゴーン ゴーン ” と、掃除をしている途中に、浅草寺の鐘が鳴る事も稀《まれ》である。そこに赤岩が現れた。「おはようございます」 そう言って、赤岩は身体を伸ばしていた。「赤岩さん、いつも早いですな~」 片山が声を掛けると「夜、寝るのも早いですから~」 赤岩はニコッと答えた。(あれ? 赤岩さんの部屋、

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第二話 花見に馳せる夢

    第二話    花見に馳(は)せる夢江戸に春が到来した。春の知らせとは桜である。 桜が咲けば春の訪れを意識するようになるものだ。ここ吉原は、高い壁がある。出入り口にある大門(おおもん)は、唯一の出入り口であるが妓女や禿は外に出る事を許されない。引退や、身請けが決まったら外に出られるようになる。それまでは “籠の中の鳥 ” なのである。 そして外からの情報も少なく、春の訪れを知るのは仲の町(吉原のメイン通り)に咲いている桜の開花なのである。「綺麗……」 梅乃は、同じ歳の小夜と桜を見に来ていた。 小夜も顔立ちが良く、髪は梅乃と同じ髪型であるがオットリしていて庇ってあげたくなる感じ

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第一話 梅乃

    第一話    梅乃一八八一年  吉原 仲《なか》の町《ちょう》  「花魁《おいらん》、通ります」 三原屋の禿《かむろ》が大きな声を出す。派手な着物に、高下駄《たかげた》を履《は》く。 そして大きな傘の下、繰《く》り出す足は外に半円を描くように引きずる。花魁の外八文字《そとはちもんじ》という歩き方である。 顔は白く塗り、大きな瞳に淡い桃色のシャドウ。 薄い口元に、小さい紅が美しさを引き立てている。 こうして店の外にある引手茶屋《ひきてちゃや》まで客を迎えに行くのだ。 引手茶屋とは、規模の大きい妓楼《ぎろう》に対し、遊女《ゆうじょ》の予約をする茶屋の事である。 客は引手茶屋で

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status